失敗しない!生前贈与の基礎知識

生前贈与とは?

生前贈与とは、存命中に財産をあげることです。

つまり、分割対策の「だれに」「何を」「どれだけ」残すかということを存命中に済ませてしまうということです。

ところで、同じ相続対策として、生前贈与とともにしばしば登場するのが『遺言』です。

それでは、生前贈与と遺言との違いは、どのような点なのでしょうか?

ひとつだけ挙げます。

それは、効力の発生時期が違うという点です。

遺言の効力が発生するのは相続開始時、つまりご本人が亡くなってからです。

それに対して、生前贈与は原則として贈与をしたとき、つまり生前です(例外はあります。効力の発生時期に条件を付けた場合等です。ここでは割愛します)。

ですので、贈与は遺言と違い、財産を相手が受け取ったことを見届けることができます

贈与税の問題

贈与には注意しなければならないことがあります。

贈与をすれば贈与税がかかります。

贈与額が多ければ多いほど税率が上がるため一度に多額の贈与をした場合には、贈与税の負担が重くなります。

ちなみに、贈与税の申告と納税義務があるのは、受贈者です。つまり、もらった人の方です。

申告と納税は、財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日に行う必要があります。

効果的に活用すれば相続税の節税対策にもなる

そこでよく用いられる方法があります。

長期ビジョンで毎年少しずつ財産を贈与するという方法です。

贈与をすれば贈与税がかかりますが、財産をもらう人1人あたり年間110万円までは贈与税はかかりません。

これが、基礎控除といわれる非課税枠です。

つまり、この非課税枠の部分を活用して、長期ビジョンで毎年110万円ずつ贈与します。

また、この方法は相続税の節税対策にもなります。生前に毎年、非課税枠内で贈与を繰り返せば、相続時の財産を減らすことができます。その結果、相続税を少なくできることがあるからです。

例をあげてみましょう。【父が息子3人に10年かけて贈与】をするとします。

110万円×息子3人×10年=3,300万円

父が将来亡くなった時に、3,300万円分については贈与済みですので原則、相続財産とはならず相続税の課税対象とはなりません(例外があります。次の「生前贈与の注意点」で述べます)。

1年だけ、110万円を息子3人に贈与するならば、相続時の財産から減らすことができるのは330万円分です。

しかし、例のように10年かけることができれば、3,300万円分を減らすことができます。

この方法は、時間をかけるほど、非課税枠が活きてきます。

(注)ただし、この方法は、そもそも相続税がかかるほどの財産がない場合は節税対策としては意味がありません。事前に税理士等の専門家にご相談のうえ検討することをおすすめします。

生前贈与の注意点

時間が必要である

非課税枠を活用する方法は時間をかけるほど、非課税枠が活きてくるとご説明しました。

しかし、裏を返すと時間が必要であるということです。

短期間の対策で減らせる相続財産は少額です。

生前贈与に節税効果も発揮させたい場合には、長期ビジョンで早めに取りかかることが大事です。

10年や15年といった長期の贈与契約をすると、一括して贈与税がかかることがある

財産をあげる人ともらう人との間で、「今後10年間にわたって毎年110万円贈与する」という契約をした場合には、1年ごとに贈与税の計算をするのではなく、契約した時に一括して1,100万円の贈与があったものとして贈与税が課せられてしまいますので、贈与契約の仕方には注意が必要です。専門用語になってしまいますが、「定期金の贈与」とみなされてしまうからです。これは、契約をしたのが口頭、書面であったことを問いません。

ですので、毎年その都度「110万円贈与する」という契約をすることが必要です。

また、贈与契約は「あげよう」「もらおう」というお互いの意思の合致、つまり口頭だけでも成立します。

しかしながら、贈与契約書を作成するなど証拠を残しておくことが大事です。

というのも後々、税務署から証拠を求められたときに「口約束で成立しました」では認めてもらえず、税金がかかってきてしまうことがあるからです。

贈与後3年以内に死亡した場合には、相続税額を減らすことができない

財産を贈与した人が贈与後3年以内に亡くなった場合、贈与財産は相続財産に加算されてしまいます。「生前贈与加算」といいます。つまり、「生前贈与加算」された分は、相続税額を減らすことができません。

相続税に加算される財産の範囲は、被相続人から生前に贈与された財産のうち相続開始前3年以内に贈与されたものです。3年以内であれば、贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算されます。よって、基礎控除額110万円以下の贈与財産も加算されることになります。

ただし、「生前贈与加算」がされない場合もあります(ここからは、少し細かいです)。

生前贈与加算がされるのは「相続または遺贈によって財産を取得した者」です。

相続または遺贈によって財産を取得しない者には、生前贈与加算がされませんので、贈与財産が相続財産に加算されることはありません。

【父が息子3人に毎年110万円ずつ贈与を続けていたが、10年目にまだ財産を残したまま亡くなり、息子3人で遺産分割協議。その結果、父の残りの財産は長男が相続することになった】としましょう。

原則的に相続開始前3年以内に贈与された財産は原則、「生前贈与加算」として相続税の対象になってきます。

しかし、次男と三男は、遺産分割協議の結果、父の遺産を取得していません。

よって、次男と三男の相続開始前3年以内に贈与された財産には「生前贈与加算」がされず相続税の対象にはなりません。

一方、長男は、父の遺産を取得していますので、相続開始前3年以内に贈与された財産につき「生前贈与加算」として相続税の対象になります。

以上が生前贈与の注意点です。

ですので、非課税枠を活かして相続税の対策をしつつ生前贈与をする場合には、長期ビジョンで計画すること、また、贈与契約の方法にも気をつかう必要があります。

まとめ

  • 贈与は財産を相手が受け取ったことを見届けることができる(遺言とは違う)
  • 非課税枠を活用して、長期ビジョンで毎年110万円ずつ贈与すれば相続税の節税対策ができる。ただし、時間が必要。贈与契約の仕方に注意が必要。
  • 10年や15年といった長期の贈与契約をすると、一括して贈与税がかかることがある。また、贈与契約書など証拠を残すことも大事。