自分に合った遺言書とは?自筆証書と公正証書遺言
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『自筆証書遺言のルールが変わります~自筆証書遺言の新しいポイント~』(9分41秒)
目次
遺言書とは?
遺言とは、「だれに」「何を」「どれだけ」財産を残すか文書にすることです。
遺言は、本人の自筆で作る「自筆証書遺言」と公証人が作成にかかわる「公正証書遺言」の2種類がよく使われています。
自筆証書遺言とその方式
自筆証書遺言とは、自分で作る遺言書です。
と言いましても、自由気ままに何でも好きなように書けるわけではありません。
自分の死後に法的な効果を発生させるためには一定の方式に則る必要があります。
一定の方式とは、遺言をする人が遺言書の本文、日付、氏名を自分で書き、これに押印することです(民法第968条第1項)。
また、誤字脱字の訂正の仕方も方式が定められています(民法第968条第2項)。
これらの方式に則らない場合、自筆証書遺言そのものが無効になるので、注意が必要です。
➀「本文」を自分で書く
自筆証書遺言は「自分で書く」必要があります。
自分で書くとは、自分の手で書くことを意味します。
「自分で書かない」場合は、遺言書そのものが無効になります。
なぜ「自分で書く」必要があるのでしょうか?
「自分で書く」ことによって筆跡から遺言者本人によるものであることを確認します。
そのうえで、遺言内容が本当に遺言者本人の意思に基づくものであることを判断するためです。
自筆証書遺言は、筆記用具と紙、印鑑さえあれば自分ひとりだけで作成することができます。
証人や立会人は不要です。
つまり、作成は非常に簡易です。
しかしながらその分、相続開始後揉めないようにする必要が出てきます。
そこで、必ず「自分で書く」というように方式が厳しくなります。
②「日付」を自分で書く
次に、遺言書が完成した日付を記入します。
「平成〇年〇月〇日」と記入して下さい(もちろん西暦でもかまいません)。
「平成〇年〇月吉日」は不可です。
日付は特定できることがポイントです。
「平成〇年〇月〇日」ならば特定できます。
しかし、「吉日」では特定できません。
特定できなければ、それが原因で争いになりますし、そもそも遺言書そのものが無効になります。
③「氏名」を自分で書く
遺言者が氏名を自分で書きます。
戸籍上の氏名を正確に記載しましょう。
氏名の記載場所について定めはありませんが、
本文の記載、日付の記載の後に記載しておくのが望ましいでしょう。
④「押印」を自分でする
遺言書を作成した方が印鑑を押します。
印鑑は認印でもよいのですが、証明力を高めるために実印で押印して印鑑証明書もつけておいたほうがより良いでしょう。
自筆証書遺言のメリットとデメリット
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言のメリットです。
主に次の3つです。
・誰に関与されることなく自分ひとりで手軽に書くことができる
・遺言の内容や遺言作成の事実を知られるおそれがない
・お金がかからない
以下、順番にご説明します。
誰に関与されることなく自分ひとりで手軽に書くことができる
公正証書遺言ですと公証人や証人2人の関与が必要となってきますが、自筆証書遺言は自分ひとりで書けます。
遺言の内容や遺言作成の事実を知られるおそれがない
自分ひとりで書けるので、遺言の内容や遺言作成の事実を知られるおそれがありません。
お金がかからない
紙とペン、印鑑さえあれば書けます。
また、公正証書遺言と違い、公証人への手数料がかかりません。
司法書士や行政書士のような専門家からアドバイスを受けない場合は、専門家への費用もかかりません。
以上が、自筆証書遺言のメリットです。
次に、自筆証書遺言のデメリットです。
自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言のデメリットは主に次の4つです。
・要件不備のため自筆証書遺言そのものが無効になることがある
・家庭裁判所で「検認」の手続きが必要 ※注
・遺言が発見されない場合がある ※注
・紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがある ※注
【※注 2020年7月10日から変わります(後述します)】
以下、順番にご説明します。
要件不備のため自筆証書遺言そのものが無効になることがある
自筆証書遺言の方式は、法律上厳しい要件が定められています(民法第968条第1項、第2項)。
要件をひとつでも守らないと、遺言そのものが無効です。
このように要件が非常に厳しい自筆証書遺言を、法律知識のない方が作成した結果、
知らず知らずのうちに方式を守っていなかったということは起こりがちなことです。
そうなってしまいますと、せっかく書いた遺言書が無効になってしまいます。
家庭裁判所で「検認」の手続きが必要 ※注
遺言者が亡くなった後に必ず家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
検認とは、遺言書の偽造や変造を防止するために家庭裁判所が関与する手続きです。
偽造や変造を防止するための手続きであって、遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。
ですので、相続が開始したときに自筆の遺言があるときは、
家庭裁判所にて手続きが必要である、と覚えておいていただければと思います。
ちなみに、検認手続きの流れは以下のとおりです(民法第1004条)。
➀申立て
遺言書を保管していた人または発見した相続人が、家庭裁判所へ検認手続きの申立てをします。
②家庭裁判所から通知の発送
家庭裁判所から申立人およびすべての相続人に対して検認を実施する日時の通知が届きます。
③検認(相続人全員の立ち合い)
検認の日に、すべての申立人およびすべての相続人立会いのもとで、
家庭裁判所で遺言書が開封されます。
なお、申立人は必ず出席する必要がありますが、
相続人は各自の判断で出欠席を決めることができます。
④家庭裁判所の「検認調書」作成
家庭裁判所は、遺言書の形状(遺言書がどのような用紙に何枚書かれていたか等)、
加除訂正の状態、遺言書に書かれた日付、署名・印などを確認し、
この結果を「検認調書」にまとめます。
以上で、検認は終了です。
この手続きは日時がかかります。
そして、この手続きが終わるまでは財産の名義変更ができません。
また、検認手続き開始のときには家庭裁判所に相続人一同の出席が必要です。
そのため、書かれている内容によっては相続人どうしで気まずくなることがあります。
【※注 2020年7月10日から変わります(後述します)】
遺言が発見されない場合がある ※注
自筆証書遺言のメリットは、誰に関与されることなく自分ひとりで手軽に書くことができることでした。
また、自分ひとりで書けるので、遺言を書いたことを黙っておけば、
遺言の内容や遺言作成の事実を知られるおそれがないこともメリットでした。
しかし、これらのメリットはデメリットにもなります。
つまり、自分ひとりで書いて黙っておいた結果、
遺言書が発見されないおそれがあるということです。
そうなってしまいますと、遺言書の内容が実現されません。
ですので、それを防ぐために、書いた遺言書は信用できる人に託しておく等の対策が必要でしょう。
【※注 2020年7月10日から変わります(後述します)】
紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがある ※注
自筆証書遺言は手元で保管することになります。
そうなりますと、紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれが出てきます。
【※注 2020年7月10日から変わります(後述します)】
自筆証書遺言の要件が緩和されます
自筆証書遺言は簡易に作成できます。
その分、作成のときの方式の要件は非常に厳しく、ひとつでも守らないと遺言書そのものが無効となるとご説明しました。
しかしこの先、その要件が法律の改正や新設により順次緩和されます。
次の2点が目玉です。
・財産に関する部分は自分で書かなくてもよくなります(2019年1月13日(日)から実施)
・法務局で遺言書を保管してもらえるようになります(2020年7月10日(金)から実施)
以下、順番にご説明します。
財産に関する部分は自分で書かなくてもよくなります(2019年1月13日(日)から実施)
全て「自分で書く」ことが大原則でした。
しかし、民法改正により、2019年1月13日から財産目録はパソコンによって作成ができるようになります。
また、不動産登記簿や通帳のコピーを使用することも認められるようになります。
つまり、財産の特定に関する部分は手書きでなくてもよくなります。
高齢になってくると文字を書くことが難しくなる場合があります。
にもかかわらず、全文手書きを要求するのは厳しすぎるのではないかという指摘が以前からされていました。
そこで、財産の特定に関する部分は手書きではなくてもよいとしたのが、今回の民法の改正です。
ですので、その部分は遺言者自身が作成する必要はありませんから、パソコンの操作に慣れた第三者に作成をお願いすることもできます。
なお、財産目録等には各ページに氏名の記載(これは手書き)と押印が必要です。
次のものは記載例です。
法務局で遺言書を保管してもらえるようになります(2020年7月10日(金)から実施)
自筆で書いた遺言書は自宅で保管されることが多いのが現状です。
それによって発生するデメリットは次のとおりでした。
・遺言が発見されない場合がある
・紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがある
そこで、これらの対応策として、自筆で書いた遺言書を法務局で保管する制度が創設されることになりました(『法務局における遺言書の保管等に関する法律』といいます)。
手続きの概略は以下のとおりです。
➀遺言者が法務局へ保管の申請
まず、遺言者が法務局へ保管の申請をすることで、遺言書を法務局で保管してもらいます。
保管されている遺言書を閲覧できるのは、遺言者が生存中の間は遺言者だけです。
遺言者以外の人は閲覧することはできません。
また、遺言者のみが保管の撤回もできます。
②遺言者が亡くなった場合
その後、遺言者が亡くなった場合は、相続人から遺言書の写しの請求や閲覧が可能になります。
法務局側は、相続人の一人から遺言書の写しの請求や閲覧がされたら、
他の相続人に遺言書が保管されていることを通知します。
以上のように、法務局で遺言書を保管してもらうことにより、
今までだったらデメリットだったことがこのように変わります。
【変更前】遺言書が発見されない場合がある
【変更後】遺言書の存在の把握が容易に
【変更前】紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがある
【変更後】これらを防止できる
また、自筆証書遺言のデメリットに、相続が開始した後は家庭裁判所で「検認」の手続きが必要である、というものがありました。
この「検認」は手続きが煩雑で日時がかかるうえに、検認が終了するまでは財産の名義変更ができません。
しかし、この保管制度を利用した場合には「検認」の手続きが不要になります。
今までだったらデメリットだったことがこのように変わります。
【変更前】家庭裁判所で「検認」の手続きが必要
【変更後】遺言書の保管制度を利用した場合は「検認」の手続きは不要
以上が、自筆証書遺言の要件緩和のお話です。
今後実施される自筆証書遺言の要件緩和をまとめますと、次の図のようになります。
公正証書遺言のメリットとデメリット
公正証書遺言とは、公証役場というところで公証人に作成してもらう遺言書のことです。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言のメリットです。
・作成に法律家が関与するため、遺言内容に争いが生じたり、遺言が無効になることが少ない
・家庭裁判所の「検認」手続きが不要
・紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがない
以下、順番にご説明します。
作成に法律家が関与するため、遺言内容に争いが生じたり遺言が無効になることが少ない
公正証書遺言は、公証人が作成します。
公証人とは、裁判官、検察官、弁護士などの法務実務に30年以上かかわってきた人のなかから選ばれ、法務大臣によって任命される公務員です。
いわば、法律のプロです。
その法律のプロである公証人が遺言内容を確認したうえで作成されるのが公正証書遺言です。
ですので、形式不備によって遺言が無効になるリスクや内容が不明確な遺言となるリスクは少ないと言えます。
この点が自筆証書遺言との一番大きな違いです。
安全性・確実性では公正証書遺言が圧倒的に勝ります。
家庭裁判所の「検認」手続きが不要
2020年7月10日以後は法務局で保管してもらう自筆証書遺言との差がなくなります。
自筆証書遺言を法務局で保管してもらった場合は「検認」が不要になるからです。
となりますと、2020年7月9日以前ならば公正証書遺言はもとより「検認」が不要ですので、自筆証書遺言より優位といえます。
しかし、2020年7月10日以後は法務局で保管する自筆証書遺言も「検認」が不要となりますので、
検認の要否という部分について公正証書遺言との差がなくなるといえます。
と言いましても、煩雑で日時のかかる「検認」がそもそも不要という点は、
これからも公正証書遺言のメリットであることに変わりはありません。
紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがない
公正証書遺言の「原本」が公証役場で保管されるため、紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがありません。
ちなみに、「正本」「謄本」が遺言者側に交付されます。
なお、この公正証書遺言のメリットについても自筆証書遺言との差はなくなります。
2020年7月10日以後は自筆証書遺言も法務局で保管してもらえるようになり、
紛失や相続人による改ざんや廃棄、隠匿のおそれがなくなるからです。
公正証書遺言のデメリット
以上、公正証書遺言のメリットについてご説明してきました。
それでは、公正証書遺言のデメリットです。
・公証人に支払う手数料と司法書士など専門家への報酬が必要
・証人が必要
以下、順番にご説明します。
公証人に支払う手数料と司法書士など専門家への報酬が必要
自筆証書遺言と違い、お金がかかります。
公証人に支払う手数料と司法書士など専門家への報酬が必要になります。
証人が必要
公正証書遺言を作成するときに、証人2人の立会いが必要です。
そして、この証人は誰でもなれるわけではなく、一定の制限があります。
たとえば、推定相続人や財産をもらう人はなることができません(民法第974条)。
また、証人の選定の仕方によっては、遺言書を作成したことや遺言の内容が漏えいするリスクがあることになります。
公正証書遺言は、公証人と証人2人の関与が不可欠です。
これらの者には遺言書を作成したことや遺言の内容を知られることになります。
しかし、公証人は守秘義務を負っていますので、公証人から漏えいするリスクはありません。
また、司法書士等の専門家も守秘義務を負っています。
よって、証人に、司法書士等の専門家を選任する場合には漏えいリスクはありません。
安全性・確実性が高いのは公正証書遺言
公正証書遺言と自筆証書遺言。
結局、どちらの遺言書がよいのでしょうか?
ここまでの、それぞれの遺言書の特徴についてまとめてみました。
自筆証書遺言はこの先、書きやすくなります。
それでは、自筆証書遺言が書きやすくなることによって、
公正証書遺言との差異はなくなるのかというと、必ずしもそうであるとは言えません。
最大の違いは、公正証書遺言の安全性・確実性の高さです。
自筆証書遺言を保管する際、法務局の担当者(「遺言書保管官」といいます)は、
本人確認を行い、日付の誤り等のチェックをしますが、それはあくまで形式審査です。
つまり、遺言に書かれている内容そのものの有効性や本人の判断能力の確認は行いません
(このブログを書いている平成31年3月現在、『法務局における遺言書の保管等に関する法律』には遺言内容の有効性や本人の判断能力を遺言書保管官が確認する旨の条項はありません)。
よって、遺言書を法務局に保管したからいって、
“争族”を必ずしも回避できるというわけでありません。
それに対し、公正証書遺言は、法律のプロである公証人が遺言に書かれている内容や本人の判断能力を確認したうえで作成されます。
また、作成の際にはあらかじめ司法書士等の専門家に相談することが一般的ですので、二重にチェックが入ることになります。
ですので、後になってから遺言の内容や本人の判断能力のことで“争族”になる可能性は低いといえます。
まとめますと、自筆証書遺言は書きやすくなりますが、安全性・確実性の高さでは依然、公正証書遺言のほうが優位です。
まとめ
・遺言書で主なものは2種類。
本人の自筆で作る「自筆証書遺言」と公証人が作成にかかわる「公正証書遺言」
・自筆証書遺言は要件をひとつでも守らないと、遺言そのものが無効になる
・自筆証書遺言の厳しかった要件がこの先順次、緩和される。
財産に関する部分は自分で書かなくてもよくなる(2019年1月13日から)、
法務局で遺言書を保管してもらえるようになる(2020年7月10日から)
・自筆証書遺言の要件が緩和されても、
安全性・確実性の高さでは依然、公正証書遺言のほうが優位