なぜ、法定相続分どおりに不動産を相続すると不都合なのか?
目次
共有状態が発生する
法定相続分どおりに相続する。これによりどのようなことが起こるかというと、財産の共有状態が発生します。共有状態とは、財産を複数人で所有することです(なお、法定相続人がひとりだけの場合は以下の話は当てはまりません。ただし、被相続人から共有持分を相続した場合は、法定相続人がひとりだけでも当てはまります)。
たとえば、子が3人兄弟の家庭で父が亡くなったとしましょう(母は既に他界しているものとします)。
この場合の3人兄弟の法定相続分は、それぞれ長男3分の1、次男3分の1、三男3分の1です。
この3人で各3分の1ずつの割合で財産を所有すること。これが共有状態です。
どのような財産が共有状態になるかによっても話が大きく変わってきます。
相続する財産が、現金300万円のケースと不動産のケースだとしましょう。
まずは現金300万円のケース。
この場合は、兄弟が、法定相続分3分の1に応じてそれぞれ100万円ずつ取得すればなんら問題ありません。現金の場合はその金額を分ければおしまいです。
それに対して不動産のケース。
不動産は羊羹を切り分けるように、物理的に分けることができません。この点が、分けやすい現金との違いです。
そして、切り分けることができないため、法定相続分に応じて長男3分の1、次男3分の1、三男3分の1の共有状態の登記をするとどうなるのか。
次のような不都合が生じます。
共有不動産全体を売却するときは共有者全員の同意が必要(民法第251条)
多数決ではありません。全員です。
たとえば、3人兄弟の長男と次男が売却に賛成しても、三男が反対していれば共有不動産全体の売却はできません。つまり、不動産を売ってお金に変えたいときでも、自分の一存だけで不動産を売ることができないのです。
なお、共有不動産「全体」の売却は共有者全員の同意が必要ですが、自分の「持分」だけを売却することは可能です。たとえば、長男だけが自分の持分3分の1を第三者に売却するようなケースです。しかし、実際問題として、持分だけの売却はなかなか買手がつかないのが実情です。なぜなら、買っても他の共有者がいるため、それこそ最初から制限のある不便な不動産だからです。
共有持分権者に相続が発生すると関係者が増えてますます複雑になる
共有持分についても、相続の対象となります。
たとえば、3人兄弟が、共有状態を解消することなく全員亡くなったとしましょう。
すると、共有関係にあらたに長男、次男、三男の相続人が入ってくることになります。
共有不動産全体を売却するには共有者「全員」の同意が必要でした。
たとえに挙げた3人は兄弟だったのでコミュニケーションは取れていたかもしれませんが、その3人の相続人たちはどうでしょうか。相続人たちどうしで普段からコミュニケーションが取れていればよいのですが、もし疎遠だったら?話し合いはできるのでしょうか?
ひとりでも反対する人や非協力的な人がいるとしたら?
同意の意思表明をすることができない認知症の方がいらしゃったら?
行方不明者がいたら?
(ちなみに、認知症の方や行方不明者がいる場合は、裁判所が関与することになります。その手続きは煩雑です)
関係者が増えれば増えるほど、複雑になります。
同意を得られないリスクも高まります。
同意を得られなければ、不動産を売却できません。
不動産の共有は極力避ける
共有状態の不動産は売ることができなくなるリスクがあることわかりました。
それならば、どのようにすればいいのでしょうか?
次のとおりです。
- 遺言を書く際も、不動産など分割しにくい財産につき法定相続分に従って相続させる旨の内容は極力避ける。
- 遺産分割協議の内容も、不動産など分割しにくい財産につき法定相続分に従って各相続人が取得する旨の内容は極力避ける。
- あえて不動産を共有にしても良いのは、相続登記後に売却見込みが立っている場合など。
判断に迷われる場合などは専門家にご相談なさることを、おすすめ致します。
まとめ
- 不動産を法定相続分どおりに取得すると共有状態が発生する(法定相続人が一人だけの場合を除く)
- 共有不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要
- 共有持分も相続の対象になる。共有持権者に相続が発生して関係者が増えると複雑になる
- 遺言や遺産分割協議の際、共有で取得する内容は極力避ける